何億年という時間が削りだした岩場にその寺院は建っていた。神の啓示か、タナ・ロット。

インド洋を渡ってくる大波は
岩を削ぎ落として断崖をつくった。
神の啓示か、海の中にぽつりと小さな岩場が残った。
何億年という時間が創造したその岩場の上に寺院は建つ。
断崖の足下に風が溜まった。
白い飛沫が空中に吹き上げられて、小さな虹をつくった。
雲の隙間から光が射した。海は明るく輝き始めた。
人は寺院の肩越しに
大海原を見つめながら立ちつくした。
祈りを捧げたその目に映ったものは何だろう。

タナロットはバリで一番の観光名所かもしれない。駐車場には大型観光バスが並び、寺院を望む対岸には山ほどの人が群がっていた。 メングイのタマン・アユン寺院の帰りタナロットへ行ってみることにした。タマン・アユンも有名なヒンドゥー寺院なのだが、空模様が悪かったせいか、観光客は少なかった。それがかえって静寂感を醸し出して、どこかしら厳かな気分を高めてくれた。 タバナンを経由してタナロットへ向かった。近づくにつれて大型の観光バスが目立つようになった。乗用車も多くなった。私はタナロットにウンガサンのウルワツ寺院のような寂びれたイメージを持っていたから、勝手が違った。

日曜日の嵐山のような雑踏なのだ。駐車場にクルマを入れて、歩いて海岸線まで歩いた。参道のような道にはお土産物屋が並び、行列のような人並みが続いた。ほとんどがジャワからの観光客であるらしい。
タナロット寺院が見える岩場にたどり着くと、目線と同じ位置にタナロット寺院が見えた。巨大な岩の上に木造の社が造られている。強い信仰がこの驚異の建造物を造らせたのだろうが、それにしても凄い。下を見ると干潮のため、タナロット寺院との間の海が消えていた。そこにもたくさんの観光客がいた。一歩でも近づきたいと言う願いからなのかどうかはわからない。

も岩場を降りて行き、タナロットを見上げるところまで近づいた。間近でみる寺院は、長い年月の間に波と風雨に晒された姿を見せていた。潮が満ち始め、やがてタナロットは海に浮かぶ島になった。その彼方に広がるのは果てしないインド洋。岩場の上まで引き返して、西日に浮かび上がるタナロットのシルエットを眺めた。
その昔、ジャワから来た高僧がタナロットの景観に心を奪われ、海に浮かぶ岩礁に寺院を建立することを決めたということだが、確かにここは、神々が降臨するにふさわしい場所に違いない。

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