デンパサールの路地裏には、濃密な時間があった

デンパサールの裏通り、炭火を入れた巨大なアイロンを巧みに操る老人に会った。路地裏のアイロン屋だ。回りを見渡したが、クリーニング屋のアイロン部のようにはとうてい思えなかった。独立したアイロン屋に違いない。炭火アイロンは大小3つばかりあり、当てる場所に応じて使い分けているように見えた。

ただでさえ暑いバリの昼下がり、風も通りにくい細い路地。なのに、老人はたいした汗もかかずに、もくもくと炭火で焼けたアイロンを動かした。目が合った。何かを喋りかけようとしたが、とっさのことで言葉が出てこない。「セラマット・シアン」というあいさつの言葉さえ出てこなかった。

取りあえず、「暑いのに大変ですね」という思いを込めて、にっこりと笑顔を送った。老人は、ふん客じゃないのかという顔で視線をアイロンに戻し、仕事を続けた。炭のはじける音がした。

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