友人のコピーライターの事務所で打ち合わせをした帰りのことだった。駅へ向かう途中に、ギャラリーのような、雑貨屋のようなお店があった。全面ガラス張りで、通りから中がよく見えるようになっていた。通り過ぎようとして何気に中をのぞくと、気になる絵と木の箱が目に入った。何だろう?

絵は木版画のようなおおざっぱなカタチの、イラストと言ってもいいようなもので、色合いとフォルムが好みだった。箱は作家が手作りした版画を納めるケースで、20枚の版画が入っているという。初版刷りのみの特典らしい。版画のサインはRoshuとあった。
店の人の説明で、岡田露愁という作家の作品だとわかった。残念ながら名前を聞いたことがなかった。 でもなぜか心惹かれる絵なのだ。20枚の版画を全て見せてもらった。半分は左の写真のような絵で、半分は面白いフォルムの英字だった。値段はケース込みで22万円と付いていた。「高い!」と思ったが、よく考えると一枚1万円なのだ。しかもケースは限定で、これを見逃すと後悔すると思った。
カードで支払いを済ませ、包装をしてもらって家に持って帰った。私が買ったものの中で、電気製品以外では最も高い買い物だったし、何より全くの衝動買いだったから、妻に何か言われると覚悟していた。ところが、意外やすんなりと受け入れてくれた。買ってしまったものはしょうがないと思ったのだろうか。
この版画を買ってから、岡田露愁を意識するようになったからだろうか、町中で何かと岡田露愁の絵を見かけるようになった。いまはもう無くなってしまったが、道頓堀に岡田露愁がプロデュースしたバーがあった。通りに面した壁面に岡田露愁の絵がなぶり書きされていた。それから、打ち合わせに行った帰り道、京都の2号線沿いに「ビル全体が岡田露愁の作品」みたいな会社があった。勝手に、社長が岡田露愁の後援者なのだろうかと想像したりした。

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