私の好きなモノの一つに眼鏡がある。小さい頃から近視がちで、小学校5年から眼鏡をかけていたせいかも知れないが、眼鏡好きには違いない。
生まれ育った町に眼鏡店はなく、大きな町に出て眼鏡を買って貰った。その眼鏡は就寝時に枕元に置いていて、何度か踏みつけて、やがて修復不能になるほど壊してしまった。学校に行くのに眼鏡がなくてはならないのに、つるが折れて眼鏡がかけられないのだ。両親とも商売が忙しく、大きな町まで出て行く暇がない。

ところがどういう分けか近くのはんこ屋さんに眼鏡フレームを置いていると母が聞き込んできた。行ってみると判子を彫る作業台の横に小さなガラスケースがあって、その中に10点あまりのセルフレームが並べてあった。大人用ばかりで子供用はなかった。それでもはんこ屋のおじさんは、眼鏡レンズに合う大きさのフレームを捜してくれたのだが、それは赤いフレームの女性用だった。これでどうか、とおじさんは薦めたけど、子供心に私は赤い眼鏡は絶対イヤだった。女性用の赤い眼鏡などして行ったら、学校で笑われるに違いない。

次に合いそうな眼鏡は黒のフレームだった。しかし、レンズの大きさとピタリと合っていたわけではない。はんこ屋のおじさんはフレームを温めて目立たない程度に波打たせ、何とかレンズを固定してくれた。さらにはワイヤー入りのつるも、私の顔に合うように調整してくれた。家に帰ると顔中眼鏡だらけの印象に母は顔を曇らせた。小さい顔に太く大きめの黒縁眼鏡、やがて私のトレードマークになった。
きっとそんな理由で、私は眼鏡に何かの思い入れを抱くようになったのだろう。大人になってコンタクトレンズに代えてからも、サングラスだけでなく、度なしの眼鏡も好んでかけていた。

この眼鏡は20年近く前に買ったものだ。イタリア製だったと思う。買ったときは気がつかなかったのだが、何年か後に別の店で新しい眼鏡を買ったとき、店の人からその時かけていたこの眼鏡を、イタリア製ですよね、と言われたからだ。
この眼鏡のクラシックなスタイルと、何よりフラットなレンズが気に入っている。写真のように、光源をスパッと反射するところが大好きなのだ。この見事な反射具合はフラットレンズならではである。昔見たサスペンス映画の主人公のような趣があるでしょ。

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