どういうきっかけで船戸与一という作家を知ることになったのかは忘れてしまった。ただこの「猛き箱船」を皮切りに、私の船戸与一を巡る旅は始まった。初めてフォーサイスを読んだ時のような興奮があった。
フォーサイスの最初の一冊は「戦争の犬たち」だったと思う。以後、スケールの大きな小説が好きになり、好きになった作家の本は立て続けに読んだ。そして、一番はじめに読んだ小説が何より印象に残ったところは船戸与一も同じだった。 船戸与一は学生運動に傾倒し、大学では冒険部に席を置いた人らしい。そんな若い頃の経験がそのまま小説になったと思える。小説の舞台はほとんどが外国で、それはアフリカだったり、中東だったり、メキシコだったりする。曰わくのある日本人が主人公で、虐げられた少数派に与して、体制への抵抗活動していく的な内容のものが多い。まさに男の小説といっていい本だ。

「猛き箱船」に登場するのは日本人傭兵である。船戸与一は内戦ものが好きで、日本人は自衛隊崩れの傭兵で、相手はその国の軍や反政府ゲリラだったりすることが多い。もちろん、そうでない設定もたくさんあるのだが、そのほとんどで、登場人物は敵も味方も死んでしまう。ある種、一時期のフランス映画のような不条理感に覆われてしまう。船戸与一の凄さは、そのリアリティーである。これはフォーサイスにも似た「ノンフィクションまがい」の説得力を持つ。

膨大な参考文献を読み、現地を取材して得た資料の賜であると解説者が書いていたのもうなずける。事実、巻末に掲載されているの参考文献の数は恐ろしく多い。
印象に残った本は、メキシコを舞台にした「午後の行商人」、ブラジル版用心棒「山猫の夏」、幕末のアイヌ悲話「蝦夷地別件」、直木賞受賞作の「虹の谷の五月」、カンボジアの復興がテーマの「夢は荒れ地を」。もし船戸を読む気になったら、デビュー小説の「非合法員」をおすすめしたい。

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