名村造船所跡で我々を迎えてくれたのはラバーダックだった。久しぶりの再会である。天満橋と天神橋の間にある八軒屋浜に長らく浮かんでいたので、おなじみでもあるのだ。最初はみんな「ひよこ」と言っていた。誰もが「黄色い小鳥=ひよこ」という固定観念から逃れられなかった。分かっている人は「水に浮かんでいるのだからアヒルだろう」と言っていたが、大半の人はつい「ひよこ」と言ってしまうのだった。しかも「ひよこ」で十分に会話は成り立ち、聞いている方にも違和感はなかった。ラバーダックという正式な名前があることはずいぶん後から知ったことだ。
名村造船所跡は、想像していた「造船所跡」とは違っていた。思ったよりも小さかった。どんな船を造っていたのか知らないが、勝手にもっと巨大な、例えばタンカーなんかの大型船の造船所を思い浮かべていたのだ。その造船所の建物内を時間を切って見学できるようになっていた。希望者が多く、申し込もうとした時点で2時間待ちだった。すぐに諦めることにした。
ここからの帰りには2通りの方法があって、出発点の大阪ドーム前まで船で来たルートを帰るか、鶴浜までシャトルバスで行き、そこから天保山行きの船に乗るかだった。
折角だから大阪湾を横切って天保山を目指すコースを選ぶことにした。鶴浜の船着き場はイケアの前にあり、そこで待つことしばし、やって来たのはサンタマリア号だった。「一度は乗ってみたい」と願う船ではなかったが、乗船できて正直うれしかった。
まがい物の帆船はエンジンの音も高らかに大阪湾を横切っていく。遙か頭上を横断する港大橋の下を通過し、南港フェリー埠頭を左に臨みながら中央突堤を迂回して、海遊館の裏手の船着き場に到着した。距離にすればわずかなものだが、所要時間約40分の、久々の船旅だった。