河口に近づくにつれ川幅は少しづつ広くなり、波も高くなってきた。通称眼鏡橋の千本松大橋の下をくぐると右手に運河が口を開けている。以前に船町から鶴町へ渡し船で渡った木津川運河だ。そして見えてきたのがこの景色である。
中山製鋼所を海から眺めることができるとは感激である。目的地の名村造船所跡がどこら辺にあるか全く分かっていなかったから、見覚えのある錆び付いた建屋を見た時は、正直テンションが上がった。3基並んだ重厚なクレーン、どっしりとしたコンクリート護岸壁の上にそびえる鉄色の建屋群。その向こうには巨大な橋桁に支えられた新木津川橋。人は何でも作ることができるんだと思わずにはいられない。そんな景色が広がっている。

ひとり一人はとても無力でちっぽけなのに、何かを目指して集まると、人はその強靱な忍耐力と精神力を団結力に変えて、ビルでも橋でも道路でも、望むものを形造ることができる。それは時に傲慢さを産み、自らを苦しめることもあるが、造り上げたものの存在感は否定できない。影に日向に我々の暮らしを支える力になっていることは間違いないのだから。
船は左岸に吸い寄せられるように近づき、やがて小さな短い運河に吸い込まれた。その運河の行き止まりが、名村造船所跡だ。近づくにつれ、黄色の巨大な物体がゆるやかに揺れているのが見えた。あれは確か…。などと思っている内に、船は静かに船着き場に接岸した。

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