バンコクでの楽しみは買い物だった。ブランド品ではない。でも見方によってはブランド品でもある。しかも大きな声では話せない。つまりブランド時計のパチもんである。ものの本によるとタイはパチもん時計の天国らしい。確かにホアヒンのような田舎町でも堂々と店先に並べられていた。ロレックスは当然としてパネライ、パティック、ジャガー・ルクルトまで、コピーの程度は悪いもののかなりのブランドが揃っていた。ということは、大都会バンコクだともの凄いパチもんに出会えるはずである。ワクワクしてくる。そこで今回のガイドに聞いてみた。「高くないロレックス、どこかにないの?」。
連れて行かれたのは、何とガイドブックにも載っているアジアン雑貨の店だった。陳列棚で目隠しをした後ろのを覗くとそこは見事なほどのパチもんが所狭しと並べられていた。時計だけでなくバッグやアクセサリー、有名なブランドが取り揃えられていた。時計はロレックスのみではあったが、その仕上がり感は本物としても十分に通用しそうな出来映えだった。ホアヒンのパチもんはシャレでごまかせそうだが、さすがに首都バンコク、ケースや箱、紙袋まで用意されている。ケースには保証書まで偽造されて入っている。これは紛れもない犯罪シンジケートの仕事なのだ。ガイドが声をひそめて喋るのも無理はない。
値段もホアヒンで見たものの5倍はしている。それでも本物と比べると10分の1以下なのだけれど…。もっと他にないのかと聞くと、明日まで待ってくれたらどんなものでも用意すると言う。こちらは今夜の便でタイを離れてしまうので結局諦めることにしたのだが、次に来るときにはもう一度顔を出すことにしよう。それでも、「パチもんウォッチ買いたい気分」は収まらないが、ガイドは他に心当たりがないというので、仕方なくサイアムスクエアまで帰ることにした。
サイアムスクエアは、バンコクでも有数の高級で国際的な地域だ。取りあえず1階にあるマネーチェンジでタイバーツに換金しているとき、ふと横を見ると出店がワゴンに時計を並べているではないか。
あるはずはないと思いながらも、念のため「ロレックスはないか」と聞くと、にっこりと微笑んだ店の兄ちゃんがワゴンの下から出してきたカゴの中を見て、思わずにんまりしてしまった。カゴの中にはパチもんウォッチがてんこ盛り。アジアン雑貨の店で見たものに比べ、パチもんグレードは落ちる代物ではあったものの、確かにロレックスのロゴが入ったデイトジャストである。
おいっ、ここをどこだと思っているんだ。デューティフリーや伊勢丹も入っている政府公認とも言えるワールドトレードセンタービルだぞ!。そんなところでパチもんウォッチが買えるなんて、なんてタイはいい国なんだ!
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