ワタシの友人にバンコクで性転換手術を受けた男(?)がいる。永年の夢が叶い、自分に不似合いなモノが無くなったことは、言葉では言い尽くせないほどの喜びだったという。バンコクにはそんな男たちが世界中から集まって来ていて、一日に何人もの女になっている。術後の経過が悪くて入院が長引いた友人の話によると、その間に片手を超える数の日本人ニューハーフが手術を受け、そして退院していったそうである。友人のような年をとってからの手術は、かなり体に無理があるらしい。
それにしても、どうして性転換手術はバンコクなのだろう。答えは町の中にあった。風土なのか文化なのか、日陰者と思われがちな彼女たちは、居直ることもなく見事なほど堂々と生きているのである。しかも数も多い。町の人々も当たり前のように彼女たちを受け入れている。多分に熱帯ゆえの暑さぼけがあるのだろうか、すがすがしいほどの自由な空気に満ちている。市場経済の原理にも似て、女になりたい需要と宗教的寛大さが生んだ「なりたいねんから、しゃーないやん」的供給のバランスが理想的な形で整っているのかも知れない。
そんなバンコクの夜を飾るニューハーフの殿堂「カリプソ」へ、ガイドに誘われるまま行ってみた。鋳型に流し込んで作ったような整いすぎの顔と、今どきの女にも少ない細い腰、でもちょっと広い肩幅、少し出ている喉仏。それでもスポットライトを浴びてしなやかに踊る姿は、極彩色の熱帯魚を思わせた。医学の飛躍的な進歩と職業的な鍛錬の結果とは言え、そこらの女たちより遙かに美しいプロポーションには圧倒される。元は男と分かっていても、究極の選択を強いられたら、もしかして迷うかも…。
そんな思いを胸に、ショーが終わって出口に向かうと、ロビーではショーに出ていた踊り子たちとの有料撮影会が行われていた。元男なうえにハイヒールだから、そのデカさに圧倒される。間近にみる妖艶で美しい顔は思ったよりも大きく、高いメークアップ技術に支えられていることに気づく。これなら究極の選択で迷うこともないな、と少し肩を落としながらカリプソを後にしたワタシだった。
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