ネパール最大のストゥーパ(仏塔)のあるボダナートを見た後、すぐ近くに建つハイアットでお茶をすることになった。ワタシのたっての我が儘を、皆さんに快く同意していただいた。ハイアットは3年前にオープンしたばかりの、カトマンズでは最高位にランクされるホテルである。小高い丘の上に建つホテルはカトマンズには不似合いなほど巨大で、そして殺風景な景色の中にあった。あと何年か経つと、周辺に植栽された木々も大きく育って、もう少しマシな景色なるのだろうが、 この時ははげ頭の産毛のようであった。
ネパール様式にデザインされたエントランスを抜けて1階のロビーに入る。正面は高い天井を持つティールームになっていて、大きな窓の向こうには誰もいないプール、そしてその向こうには、ボダナートの町並み越しにストゥーパが見えるのだ。われわれはティールームのゆったりとしたソファーに座って、磨きこまれたガラス越しの雄大な景色を堪能した。大窓から強い日差しが入ってくるが、最新の空調設備によって快適に保たれている。ワタシはタメルやインドラ・チョークではけっして飲めない、クラッシュアイス入りの薫り高いコーヒーにストローを突っ込みながら、何かしっくりこないものを感じていた。すると高岡氏が言ったのだ。「ここはネパールとちゃうで!」。
確かにそうなのだ。この清潔で明るいスペース、ふかふかのソファー、行き届いたサービス、全てがネパールの空気感からはほど遠く、窓の向こうの世界と比べるとまるで無菌室のような空間なのだ。アイスコーヒーはソフィテル・セントラル並みにおいしかったけど、ホテル・ハイアットはこの地に建つ意味を間違えている気がしてならなかった。もっと工夫のしようがあったんだろうに、と思わずにはいられなかった。ボダナートの町との違和感に、宿泊者たちはきっと何かが違うと感じるはずだ。