船町を目指した一番の目的は、この景色を見たかったからだ。こんな場所があると教えてくれた人はクルマで通ったそうだが、我々は自転車で上がってきた。橋の片側が歩行者・自転車が通れるようになっているのだ。変速機付の自転車でもかなり厳しいものがあった。大方は年のせいということもあるのだろうが…。
それにしても壮観である。中山製鋼所の巨大な建屋が圧倒的存在感で眼前にある。錆びたダクトがツタのように絡まりついている。どうして人は「廃墟」のような景色に惹かれるのだろう。ここは廃墟でも残骸でもないが、それに近いものを感じさせてくれる。ここを教えてくれた人は「橋から見える廃墟」と言っていたような気がする。錆び付いた鉄には男心をくすぐる何かがある。
コンクリートや木材とは違う何かだ。錆の色だろうか、それが美しいからだろうか、崩れていく悲しみに乾ききった大地のようなじめじめしたものがないからだろうか。毎日この景色を眺めるのは気の滅入ることかも知れないが、こうしてたまに眺めると雄大な気分に浸ることができる。
ところで、この橋の名前は「新木津川橋」、通称「片眼鏡橋」と言うらしい。船町側はこの写真の通り螺旋状に高くなっているけど、住之江側は真っ直ぐに下っている。上から見ると片側だけが眼鏡のようになっているのだ。そんな橋の最頂部で写真を撮っていると、住之江側から上がってきた人とすれ違った。相当に長い距離を上がってきたのだ。息を切らしていた。それからしばらく橋の上にいたが、すれ違う人も、眼鏡橋を上がってくる人もいなかった。さすがクルマを使わずににこの橋を生活の通り道として使っている人はいないのだろう。
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