最近のお気に入りの町の一つが大正である。沖縄出身の人が多く住み、沖縄料理店が軒を連ねる町として知ってはいたが、行ってみると昭和の匂いが色濃く残る町でもあった。その大正通りを一路南下すると船町がある。広大な埋め立て地の船町は、北に位置する鶴町とは橋一本だけでつながっている。その橋を越えて船町に入るとすぐに巨大な鉄の建造物に囲まれる。錆色の町だ。道路は突き当たりを右に折れる。両側を中山製鋼所の建屋が、錆び付いた外壁を晒しながら遙か向こうまで続いている。溶鉱炉が動いているのかゴウゴウと音が聞こえる。時折クルマが行き交うだけで、人っ子ひとり歩いていない。近未来のような、廃墟のような不思議な空気感に覆われている。後日、中山製鋼所に出入りしている友人に聞いたところによると、今は溶鉱炉は止まっているらしい。この規模の製鉄所では世界で戦えないんだとか。あのゴウゴウは何だったんだろう。
とは言え、かつてリドリー・スコットが映画「ブラックレイン」のロケ地に選んだという場所である。松田優作が、マイケル・ダグラスが、この不思議な空気感の中をバイクで駆け抜けたのだ。もう一度「ブラックレイン」が見たくなってきた。
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