地下鉄谷町六丁目の駅を降りて地上に出る。南に向かって少し歩くと、谷町筋を挟んで東西にアーケード街がある。それが空堀商店街だ。
空堀商店街は、東側から上町筋、谷町筋、松屋町筋にわたって伸びているアーケード街である。ただ谷町筋を挟んだ東側のアーケードは短く、寂れた感が濃い。写真を撮り始めた頃はその寂れた感が特に際だっていて、近頃よく目にするシャッター街とは趣きがちょっと違っていた。どちらかと言えば昭和三十年代の香りが強く残っている感じだった。廃屋となった朝日商会はどんな商売をしていたのか分からないが、間口の広さからそれなりの商いをしていたことが偲ばれたし、その横のゴミの山のような店(?)は、その偉容で周囲を圧倒していた。通りの鼻つまみ者だったに違いない。
そのゴミの山のような道具屋の向かいに、深い谷にでも降りていくような石の階段があった。

左右の薄汚れた板塀と頭の上にかかった安っぽいテントシートのおかげで、その時は降りてみようという気になれなかった。何となく怖かったのだ。階段の向こうには狭い路地を挟んで町屋がぎっしりと並び、ここに降りていったら戻れなくなってしまうような気さえした。今思えば、そこに暮らしている方々に失礼な話なのだが、その時は本当にそう思ったのだ。それからずいぶん経って、何度かこの階段を降りてみた。本当はカメラを持って行きたかったのだが、なぜか気後れしてしまって、結局一度も写真を撮ることはなかった。
最近は町歩きで近くを良く歩く。旧熊野街道沿いの町屋群であることも最近になって分かったことだ。家と家との裏路地は自転車一台も通れないほどの狭さで、夕暮れ時に歩きながらそんな路地を覗くと、やっぱりここに迷い込んだら出られなくなるんじゃないかって、思わせる何かがある。

TATSUYA KYOSAKI PRESENTS

Prev.

Next

Copyright(c)2013 TATSUYA KYOSAKI
Produced by BASIC INC. All rights reserved