一度は阪堺電気軌道に乗りたいと思っていた。そして終点の浜寺公園まで行ってみたいとも思っていた。友人夫婦と気候もいいしどこかへ出かけようと話してたところだったので、「路面電車で浜寺公園まで行くのはどうだろうね?」と持ち掛けたら、「いいね!」と言うことになった。
待ち合わせは南霞町の駅にした。本当は始発駅の恵美須町がいいかなと思っていたのだが、友人夫婦のアクセスのこともあり、JR新今宮駅の真下に位置する南霞町になったのだ。

でも、南霞町の駅も昔から気になっていた場所だったので、上のような写真が撮れて、かえって良かったのかも知れなかった。南霞町の駅のホームから身を乗り出すと、真っ直ぐに伸びた線路の向こうに恵美須町駅が小さく見えた。始発駅を出た電車はゆっくりと近づいてくる。ゴトゴトという懐かしい音が次第に大きくなってきた。
幸運にもやって来た電車は古いタイプの車両だった。行き先よりも大きくワンマンカーの表示があった。電車もワンマンカーと言うんだ。どうでもいいことだが、ワンマンカーは英語なんだろうか。世界で使われている言葉とは思えないのだが…。
車内はほぼ木製でできていて、幾度となく塗り重ねたうす緑色のペンキがレトロな光沢を放っていた。幼い頃に乗っていた路面電車そのものだった。シートに腰掛け身体をねじって窓の外を眺める。年甲斐もなくワクワクしてくる。遠足に出かける小学生だった頃がよみがえってくるようだ。古い車両は揺れ方も昔のままだ。右に左に、前に後ろに容赦なく身体が引っ張られる。つり革を持たないで立っているのは乗り慣れた人だけだ。足腰を鍛えるにはもってこいの通勤電車だ。
電車は我孫子道止まりだったので、我孫子道駅で一旦降り、天王寺方面から来た電車に乗り換えた。今度は新しいタイプの電車だった。大和川を越え、堺市に入った。しばらく走ると、本来の路面電車の姿で走行することになった。つまりクルマと同じ道路を走り、信号では同じように止まるのだ。それまでに比べグッと町が近くなって、クルマや歩行者が身近な存在になった。

新しい車両は揺れも少なく、窓も大きくて快適だ。窓の向こうに広がる堺の町は素敵な感じがした。堺に入ってからは乗降客も増えたようだ。買い物や小用など、いつもと変わらない乗客を見ていると、小旅行気分は盛り上がった。首からカメラをぶら下げたりして、まるで異邦人の気分だった。お花見のシーズンと言うこともあって、浜寺公園に着いた時はほぼ満員になっていた。小さな停留所は、降りる人乗る人で溢れかえった。

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